中国語本質講座第九回:あなたの記憶力を知らない間に高める脳の可塑性とは?

こんな質問をいただいたことがあります。


<質問>68歳の男性です。

今から中国語の学習を初めてものになりますか?

個人差とか学習時間によって全然条件が違うのは承知しています。

知りたいのはあくまでも生理学的な話で、です。

はたして脳にその可能性があるか?という一般論で結構です。


「知りたいのはあくまでも生理学的な話で、です。」

統計的な資料は手元にないのでなんともいえませんが、

問題ないのではないでしょうか。


脳の可塑性という話をご存知でしょうか。


脳細胞は新たな刺激を受けることで、自分で自分の構造を

新しく組み替えていく適応能力があるという点です。

脳の可塑性については、元東京大学医学部教授養老毅氏の

「逆さめがね」の実験が有名です。


「逆さめがね」とは、それをかけると、上下左右が逆さまに

なる特殊なめがねなのですが、それを被験者に3ヶ月間、

いつ時もはずさないで、被験者の脳にどういった適応現象が

おきるのかを観測しました。


上下左右逆に景色が映るのですから、被験者にとっては

生活しづらいこと、この上ありません。


3ヵ月後、面白い現象がおきます。


被験者は朝、いつもどうり「逆さめがね」をかけたまま、

目を覚ますわけですが、景色が裸眼で見るのと同じように

なっていました。つまり、「逆さめがね」をかけているのにも

かかわらず、景色が元に戻っていました。


そして、「逆さめがね」をはずし、裸眼になると、

今度は上下左右が逆に映る。


つまり、脳は生活しにくい環境に、自らの構造を組み替え

適応したという実験結果が出たわけです。


今、著書が手元にないので、被験者の年齢は不明ですが、

子供ではなく、成人だったと思います。


この実験からわかることは、脳にはそれだけの適応能力が

あり(「シナプス可塑性」ともいわれます)、こうした

自分で自分の細胞構造を組み変えていき、新たなネットーワーク

を組織する能力は、何も子供だけに限られたわけではなく、

成人にもあることがわかったという事実です。


詳しくは忘れましたが、75歳で大学に合格している婦人も

いらっしゃるのですから、現在のご年齢でも全然問題ないと

思います。


私の先生は、今年72歳になりますが、まだまだ学ぶのをやめません。

部屋にはたくさんの本があります。


知識の吸収と、語学の習得、両者の間に私はなんらの区別も

ないと考えますが、いかがでしょうか。


以下、語学学習方法に脳の可塑性の知識を適用する方法となります。

脳の可塑性:学習でより成果を上げるために知っておきたいこと


ご存知かもしれないのですが、脳には環境に適応するために、自分で自分の

シナプス(神経細胞の樹上突起の先端にある構造)同士の間の連結構造を組み替え

ていく「可塑性」という性質があります。


脳の可塑性については、

元東京大学医学部教授の養老毅の「逆さめがね」の実験が有名です。


被験者は、かけると景色が上下左右逆さに映る眼鏡をつけます。

起きている時、寝ているときを問わず、実験期間中にはずすことはできません。

もちろん、生活しずらいことはこの上ありません。


三ヶ月後、面白い現象が起きます。

被験者は目を覚ますと、逆さ眼鏡をかけているのに、

景色が普通どおり映っているのです。


そして、眼鏡をはずして、裸眼でみると、今度は景色が逆さに映っているのです。


被験者の脳が、逆さ眼鏡をかけることによって生じる生活しにくい環境に

適応できるように、自分の構造を組み替える「可塑性」という潜在能力が発揮された

端的な例です。


さて、脳の可塑性について、もうひとつの例としては、手術ミスの例です。

指の神経を切断してしまった患者の指の神経を医者は間違えて結んでしまった結果、

その患者が人指し指を動かそうとすると、薬指が動いてしまう、

といった問題がおきました。


医者は特にあせることもなく、時間が立てば問題ないと患者にいいました。

時間がたつと、患者の指は患者の意思どおりに動くようになりました。

脳の可塑性の周期は三ヶ月ほどだといわれています。


そこで、この潜在能力を発揮するための一般的な要件は以下の二点となります。


一、一定量の刺激があること

二、一定量の刺激が三ヶ月以上継続すること


その結果、三ヵ月以降のある日、脳が急に変わっているという現象が起きる。


これは、生理学に戻ってミクロ的にみると、細胞興奮の要件と一致します。

通常、細胞内は、-イオンによって、下記の図のように-70mV の電位になっている

のですが(①)、細胞が刺激を受け始めると、細胞膜上にある+イオンのチャンネル(通り道)が

開きはじめ、細胞外から+イオンが流入し、電位が-60、-50…と

徐々に上昇していきます(②)


詳しくはこちら

そして、電位が-50mV の閾値(臨界点)に達すると、活動電位(③)という細胞の興奮が

自動的に発生し、+イオンが流入するためのチャンネルが大きく開かれ、

細胞内に+イオンが大量に流入し、細胞の興奮は+35mV まで一気に高まります。


活動電位が発生するまでの過程(①~③)はよく、拳銃を撃つ行為に例えられます。


拳銃の弾を撃つには、一定量の力(一定量の刺激)で引き金を引き続け(②)

その一定量の力が持続した結果(一定量の刺激の継続)、

引き金がある閾値に達する(③)と、あとは圧倒的な力をともなった拳銃の弾が自動

的に発せられます(細胞興奮が自動的にかつ急激に起こる)。


細胞の興奮(活動電位)の発生要件は、図から明らかなように、


1、 一定量の刺激

2、 一定量の刺激が持続して閾値(-50mV)に達すること


その結果、劇的な細胞興奮が起きる。


注:図では活動電位発生まで、2.5msec となっていますが、

1msecは1000 分の1 秒です。


学習で「継続は力なり」といわれますが、以上の細胞興奮と脳の可塑性といった実験例からは、

2の要件について言っているのだと、理解することができます。


そして、効率性を重視するとは、いかにして高い刺激量と低い刺激量を峻別するか

(1の要件に関係)という問題である、と言い換えることができると思います。


その瞬間瞬間の刺激量が多く、細胞の興奮が起きている一つの

明らかな指標が、「楽しい!」という興奮した気持ちになって現れているのだと思います。


「つまらない…」とは、刺激量が足りなくて、細胞興奮(活動電位③)があまり起きてい

ない指標の一つだといえるでしょう。


ですので、語学でも大い自分を楽しませましょう!

次回は、別の記事であなたにお話しした「エビングハウス忘却曲線」と、

今回お話した「脳の可塑性」、この二つの知識を、

実際のテキスト学習の際にどのように使っていったのか、この物語をお話していきます。

→何故、テキスト本文を暗唱する必要はないのか?



中国語コーチングの受講者体験談

M.Sさん

教材自体に日本の学習書にはない強力な吸引力があります。

各課は十分に反復構成され、レベルアップする内容になっており、興味を持って進められそうです。

課が進むにつれて、阿部様の解説が重要になるでしょう。



C.Mさん

阿部様の音声解説はとてもわかりやすく、間の中国での体験談もいつも楽しく聞かせてもらってます。

重要なところは何回も念を押して説明してくれて、実際に授業を受けている感覚になるくらい、気持ちも切り替わります。

稚拙な文章で申し訳ございませんが、お礼を述べさせてもらいます。

今後ともよろしくお願いします。


→中国語本質講座第十回(最終回)へ進む

阿部拝
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