虚空蔵求聞持法:東洋医学理論を使って、空海式音読法の秘密を読み解く
さて、前回は23歳のマルチリンガルの言葉の使い方を
ケーススタディしましたが、今回は空海の音読法です。
彼は「ある日を境に、ある知識により、とんでもない記憶力を手にした」と
自らの自叙伝で雄弁に語っています。
彼が使った音読法は、シュリーマンとは違って、
「かなり特殊な音読法」です。
専門の理論を使って行間を埋めたので、「音読法」の部分に
ついていえば(というかここが空海の人生の分かれ目だった
でしょうから、最も正確に再現する必要がある個所ですね。)、
司馬遼太郎よりは、克明かつ正確に再現できたのではないかと
思っています。
まずは、空海の日本での略歴を一部見てみましょう。
804年
5月12日 難波津を出航。この時点では、自分で勝手に僧を名乗っていた私度僧にすぎない。
7月6日 肥前国松浦郡田浦から国から正規に認められた官僧の地位を得、
遣唐使の留学僧(留学期間20年の予定)として入唐の途につく。
当時31歳のときに、私度僧に過ぎなかった空海がたった2か月という短期間で、
国から正式に認められた官僧の地位を得て、更に、今後の国の将来を担っていく
エリート中のエリートである遣唐使に選ばれた、ということですね。
普通、このような突然の出世、ありえないですね。
では、次に中国での略歴をみてみましょう。
中国での足跡
12月23日 都、長安入り。
805年
2月 西明寺入りし、長安での住居とする。前後して、印度僧般若三蔵に師事。
5月 およそ3000人の弟子を抱える当時の真言密教の頂点青龍寺の恵果和尚に師事。
8月10日 恵果和尚から伝法「阿闍梨」位の灌頂を受け、「この世の一切を遍く照らす
最上の者」(=大日如来)を意味する遍照金剛(へんじょうこんごう)の灌頂名を与えられる。
※阿闍梨:弟子たちの規範となり法を教授する師匠のこと。
入学3か月で、他の弟子3000人を一気にごぼう抜きして、
恵果和尚の後継者に選ばれた、ということですね。
3000人の弟子は中国人ネイティヴがほとんどだったでしょう。
唐は当時、世界の中で最も大きな国で、清龍寺は最も規模が大きかったとすると、
上の状況を現代風に想像するならば、一人の外国人がいきなり、
ハーバード大に入学して、3か月後には、すべての学生と教授たちをごぼう抜きし、
更に、その大学を取り仕切る地位をトップから任された、という状況ですね。
トップさえもすでに抜いていた可能性は高いでしょう。
3か月で認めさせるということは。
前年の遣唐使に選ばれたとき以上の状況ですね。
超圧倒的な語学力と異常な学習力を持っていないとできない超人技であることは確かです。
12月15日 恵果和尚が60歳で入寂。
806年
1月17日 全弟子を代表して和尚を顕彰する碑文を起草。
8月 帰国の途につく。
長安に到着してから約1年と8か月後に、帰国しています。
入唐の際、4隻の船でいき、2隻は沈んだといいますから、当時、中国への
留学は命がけであったことは確かです。そして、それだけ中国留学は価値があり、
だからこそ20年計画だったのでしょうが、1年と8か月後に帰国の途についている
ということは、「もう学ぶべきことはすべて学んだ。」という空海の気持ちの現れだと
想像することができます。
「命をかけてやってきた唐の都から帰国する」というのはそういうことでしょう。
20年計画を2年にも満たない時間でやりとげた空海。
なんらかの*異能*を持っていたと考えるのが自然です。
空海はどんな方法を使い*異能*を獲得したのか?
彼の処女作「三教指帰」の冒頭にその記載があります。
…爰有一沙門,呈余虚空蔵聞持法,其経説,若人依法,
誦此真言一百万遍,即得一切教法文義暗記,於焉信大聖之誠言,…
「ある一人の在野の僧から虚空蔵聞持法を授かり、その経典によると、
ある法に則って、ある真言を百万回音読すれば、即時、一切の教典の教え
と文義を暗記できるようになる、そこでその言葉を信じて…」ということですね。
空海は100日かけて、その真言を100万回音読する「行」を行い、
最終的に、東の空に明星が現れ、強力な記憶力を獲得したというわけです。
真言音読の実践
そこで気になるその真言を調べ、実際に私自身でも音読してみたんですが、
かなり早口でも1回の音読に最低、3.5秒はかかることがわかりました。
3.5秒以下の速度で音読すると、音が崩れまくり、読み間違えが多発するので、
読みの速度は3.5秒というのが、最低ラインだと私は推測しました。
そして、0.5秒で息を吸って、次の朗読を開始。
つまり、1回の音読につき、4秒かかります。
問題は、1日1万回音読するということです。
1回4秒として、単純計算すると…
4×10000=40000秒。
1時間は3600秒ですから、1万回朗読に何時間かかるのかというと、
40000÷3600=11.111111・・・
つまり、1回4秒という速度だと、1万回音読するには合計11時間ちょっと
かかることになります。
たいしたことないですね。
これを約3か月続けるだけで、なんでも暗記できる記憶力が
身に着くのであれば、かけた時間が生み出す将来的利益を考えると、
やらない理由はないでしょう。
そこで、実践し効果の程を自らの身で確かめてみることにしました。
音読の回数はどうやって数えればいいのか?
実践に入る前に、このことを考えなくてはならないです。
4秒で1回という速度ですから、いちいち数えている暇はありません。
何よりも音読に集中する必要があります。また12時間以上かかるとなると、
社会生活と両立させることが困難になってきます。
そこで、4秒で音読したものをMP3に録音し、ループ再生、
それをシャドウイングするという方法をとることにしました。
シャドウイングをはじめるときは、ストップウォッチを作動させ、
休憩時はそれをストップ。たまに起こる読み間違えも想定し、
ストップウォッチの時間が12時間に達した時点で、1日の音読作業を
終了とします。
1日目
ここに1日目の12時間音読の実感を紹介します。
まず、かなりの興奮状態になり、眠れなくなりました。
あなたも体験したことはあると思いますが、数日間徹夜すると、
「イタイ程乾いたような、かなりハイの状態」という感じになることがありますね。
あれに似ています。
身体に異変がおきる
初日の12時間朗読にともなって、私の身体に起きた異変を紹介していきます。
1、左耳が痛くなることしばしば。
2、右半身が詰まる感じ。
3、胃のムカつきと吐き気しばしば。
死んだふりして休んだら(リラックスしたら)、
両足裏の中心からちょっと足の指先側にある腎経の涌泉穴に向かって、穏やかな温かく毛
糸程の細さの風が皮膚の上を流れていくような感覚(これを「氣感」といいます)が生じる。
何故、その異変は起こったのか?
これは動画の説明が便利です。以下からご覧ください。
※ダウンロード版はこちらです。ここにマウスを載せて、右クリック、
リンク先をデスクトップに保存した後、ファイルをクリックして聴いて下さい。
空海の実際の音読スピードはどれくらいだったか?
以上の議論で、空海が1回につき4秒で読んでいた可能性はまずないことはわかりました。
1日であれだけの症状が出たのだから、もし空海が、1回につき4秒朗読を継続していた
とすると、100日に満たないうちに病気になり、中止せざるを得なかったでしょう。
呼気と吸気は同じ長さであることが理想的ということは、あきらかです。
すると、3.5秒の音読(呼気)に対して(3.5秒以下にすると、
早すぎて非常に読みにくくなる)、3.5秒の吸気、合計7秒。
吸気の後、再度、音読を開始。つまり、1回につき合計7秒。
9秒になると、90000÷3600=25時間。1日をはみ出します。
とすると、空海の1回の音読時間は、およそ7秒以上9秒未満だったということになります。
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7 8 9
仮に7秒としてみると、
70000÷3600=19.44444・・・
約19時間半の朗読。
12時間に比べて、一見、相当つらくみえますが、呼吸のバランスにより、
逆に、12時間で行うときよりも肉体的にも精神的にも楽になることが予想できます。
それどころか、バランスのとれた意識的な呼吸は肉体を強め、意識を無意識に結び付け
安定させますから、肉体的健康および精神的健康増進法としても使えるかもしれません。
また、夢の世界での音読は夢の世界の物質(心の素材)を振動させる場合があります。
ですので、現実世界では、想念による黙読も効果があるといえるでしょう。
とすれば、吸気の3.5秒のときに同時に想念による黙読も行えば、
効果は更にあがることになります。
これにより、「脳の可塑性」の発揮の可能性も高まることになります。
「脳の可塑性」の周期は90日前後ですから、
1日20時間前後、100日行を行った後には、脳に何らかの劇的変化が
生まれている可能性は高いですね。
空海が*異能*を得たとすれば、脳の可塑性によるものでしょう。
まあ、私が興味あるのは*異能*を獲得することよりも、
空海の「20時間音読法」が肉体と精神に及ぼす影響です。
医大でのテーマは漢方薬つまり「陰陽五味」でしたが、
音大でのテーマは「陰陽五音」ですから。経絡測定器AMIでデータをとっていくことで、
再現性のある無形の処方箋も作り出せるかもしれません。
結論
ということで、空海は、虚空蔵聞持法を実践する際、呼気と吸気バランスのとれた1回音
読につき8秒前後、これを1日22時間前後、そして、これを100日前後に渡って
継続した結果、氣エネルギーは左半身にも右半身にも流れ過ぎず、両半身の中間点
である背骨の中心に流れ、氣エネルギーの水蒸気のような活発性、つまり陽の性質により、
そこを上昇、頭頂にある百会穴から噴き出る感覚を体験した。
同時に、意識的な呼吸が引き起こした変性意識状態による幻覚が見え見え状態で見えた
氣エネルギーの丹光を「明星来影」と表現した。
気が付いたら、記憶力が極度に強化されていた。
ちなみに、この「音読行」の死亡率は非常に高かったといわれていますが、
その理由は、あきらかに、音読を急ぎすぎ、呼吸のバランスを崩したためだといえますね。
左右のバランスをとって、左にも右にも偏りすぎず、左右の中間点に氣エネルギーを誘導し
2~4時間ほどの睡眠時間を確保できるのであれば、命を落とすほどの
「荒行」とはいえないでしょう。十分に実行可能です。
阿部拝